出羽三山と羽黒山伏

「出羽三山と羽黒山伏」について

出羽三山の写真 羽黒山伏の写真

出羽三山と羽黒山伏

羽黒山伏 徹龍

出羽三山は、山形県の西側、日本海に面した庄内地方に広がる、月山、羽黒山、湯殿山の3つの山の総称です。 一番、集落に近い羽黒山には3つの山の神を一緒に祭った神社「三神合祭殿」があります。 羽黒山頂に向かう2446段の長い石段の参道には、うっそうと茂った杉並木、日本の神話に出てくる様々な神様を祭った小さな神社や神秘的な瀧や川、国宝の五重塔、 昔のお寺や庭園の史跡、歴代のお坊さんのお墓などがあり、とても神秘的です。 2009年には、レストランの格付けで有名な、フランスのミシュランガイドの日本観光地編で、羽黒山の杉並木が、 「わざわざ訪れる価値のある場所」を意味する、最高の3つ星にランクされました。 同じく、五重の塔、山頂の三神合祭殿、今は宿泊施設と食事処となっている昔のお寺の「斎館」も2つ星にランクされ、出羽三山が、世界的価値があることが証明されました。

神社の写真

出羽三山は、神社の資料によると、ここに最初の神社が作られてから1400年以上の歴史を持つとされています。
もともとは、仏教寺院でしたが、140年前に、当時の政府の命令により、日本の神様と仏様を分離することになり、以来、ここは神様を祭る神社となりました。 その時代に、貴重な仏教の経典やたくさんの仏像、寺院が破壊されました。 今となっては、とても、残念なことです。
面白いことに、この時に開祖とされている1400年前の日本の天皇、崇峻天皇の皇子の「蜂子皇子」も仏の名前から神様の名前に変更されたのです。 しかしながら、日本人にとっては、ここに祀られるものが、神様であっても、仏様であっても両方とも大切な、信仰の拠り所であることは変わりありません。 現在でも、年間70万人と言われる参拝者、観光客が、ここにやって来て、一年中、賑わっております。

羽黒山といえば、多くの日本人は法螺貝を吹く「山伏」の姿を思い浮かべます。
神秘的な姿、法螺貝の音色、この山に、もっとも似合うものです。
山伏は宗教者です。 もともとはお坊さんの一種の修行者です。 人里離れた山にあり、厳しい修行を行い、火を燃やし、様々なお祈りをするという、仏教の一派の「密教」に付随し、僧侶とともに、念仏を唱え、祈祷を行うものです。 しかし、先ほど説明したように、今は、羽黒山の山伏は神社に属することになっていますので、神社の神主とともに、仏教の経典の替わりに神様にお願いをする形で祈祷文を読み上げます。 でも、山伏が世の平和を祈り、人々の願いがかなうように祈ることには、変わりありません。

山伏は、年間を通じて、様々な修行や宗教儀式を行います。
山伏は大きく2つに分けられます。 羽黒山の近くに住み、信者に宿を提供したり、儀式に参加する宗教者として活躍する山伏と、それ以外で全国各地に住む「里山伏」です。
昔は、「里山伏」は、そこの居住地で布教する宣教師の役割と多くの信者を出羽三山に案内してくるという「ツアーガイド」としての役割も持っていたのです。
さて、これらの山伏が一同に集まって修行をする機会が一年に一度あります。 「秋の峰」と呼ばれる修行です。 毎年160名ほどの山伏が、山にこもって修行します。
「生まれ変わりの行」と言われ、現世の様々な罪を贖罪して、生まれ変わる修行を行います。 今は7日間ですが、昔は40日間も行ったそうです。
私もその修行をしていますが、その内容は秘密で、話すことを禁じられています。
しかし、修行の間は風呂に入らないことや、食事は1日2回、一杯のご飯と2きれの沢庵と具のない味噌汁だけ、日中は山の中の霊地を駆け巡り、 夜はお堂に篭ってひたすらお祈りをする、睡眠時間は3時間などと言えば、大体、厳しい修行の概要がわかると思います。

さて、先ほど、山伏は宗教者であるというお話をしましたが、山伏は具体的な神様をイメージして、お祈りをするということではありません。 どちらかというと、自然崇拝に近いものです。 自然の山や岩、瀧や川などに畏敬の念をいだき、その長しえを祈り、人間のおろかさを自ら悟って、自分の生き方を反省するといったものです。 14年前に、私がこの秋の峰に参加した時に、あるイギリス人の宣教師と一緒でした。 私は彼に尋ねました。 「キリストを信じるあなたが、この神の修行に参加することに違和感はないか」と。 彼は、「アニミズムに近い山伏の修行はまったく違和感はない。ヨーロッパにも、どこにも、今の宗教とは別の古い時代のアニミズムの文化は残っており、 今の世の中でも環境問題や自分の生き方を考えるいい機会です」と答えてくれました。
豊かな自然に囲まれた山形に住む私たちも、宗教の違いを超えて、古い、先人の教えを学ぶ必要があると思います。

山形の風景の写真

*この記事は羽黒山山伏である正木徹龍様によるものです。